牛が草で大きくなれるのはなぜ?牛が持つ4つの胃の役割を紹介します

牛の胃は私たちの常識を超えた巧妙な構造と機能をもっていることを知っていますか?
牛の胃には微生物達が暮らす一つの世界が広がっているのです。
胃を世界に例えるなんて大げさのように聞こえるかもしれませんが、牛の胃について紹介した後には納得してくれるかもしれません。

牛の胃は4つある

これは私が岩手大学農学部に入学してまず驚いたことでした。
とはいえ胃袋が別々に4個並んでいるというわけではなく、4つの部屋に分けられる非常に大きな胃袋が食道から続いていて、食べた草はこの4つの胃をおおむね順番通りに通って腸に入っていくという構造です。

牛の第一胃(ルーメン、ミノ)と第二胃(蜂の巣)のイラスト

牛の第一胃(ルーメン、ミノ)と第二胃(蜂の巣)のイラスト

第一胃(ミノ):微生物の楽園

4つの胃の最初、第一胃は一般的にルーメンと呼ばれています。お肉屋さん的には『ミノ』ですね。この第一胃こそが牛にとって極めて大切な臓器になるのです。
実は牛のお腹を左側から見たときに見える臓器はほとんどが第一胃です。容積は成牛で約200L、大人が1人入るくらいの大きさで、牛のお腹の半面を埋め尽くします。
第一胃の中には食べた草が液体と混ざって入っているのですが、これを1g取り出すとそこには10,000,000,000(百億)個の微生物が含まれているそうです。
となると、200Lの第一胃の中には一体どれだけの微生物が暮らしているのでしょうか…?
第一胃の中はいつもポカポカ、食べ物は自動で入ってくる。まさに第一胃は微生物の楽園なのです。
この微生物たちは牛が食べた草を利用して増殖し、その過程で脂肪酸が作り出されます。実はこの脂肪酸こそが牛にとって主なエネルギー源なのです。牛は当然のように草を食べていますが、実のところ牛という動物そのものは植物を栄養にすることはできません。それができるのは微生物なのです。胃の微生物に植物を利用してもらって、出てきた脂肪酸を吸収して栄養を得ていたのです。微生物から得ているエネルギー量は牛が必要なエネルギーの60~70%と言われています。初めに第一胃が極めて大切な臓器になると言ったのは、ここが病気になると主なエネルギー源を揺るがしかねないからだったのです。

 

第二胃(ハチノス): 反芻を助ける

第二胃は蜂巣胃(ほうそうい)とも呼ばれます。お肉屋さんは『ハチノス』と呼びますね。

まさにハチノス、一度見たら忘れられない牛の二番目の胃です。
第二胃は第一胃の頭側、牛の心臓の横隔膜を挟んですぐ後ろに位置しています。
非常に独特な見た目をしていますが、その働きは第一胃と同じく微生物の楽園。脂肪酸を吸収しやすいように凹凸で表面積を増やしていると解釈されているようです。

以上の第一胃と第二胃を合せて反芻胃(はんすうい)と呼んでいます。
くつろいでいる牛を見たことはありますか?

ゆっくりしながら口をモゴモゴさせていることがありますが、あの行動を「反芻」と呼びます。牛は一度食べた草を胃から口に戻し、また噛んで飲み込むという行動をします。これによって唾液を絡めながら草を繰り返し微生物に利用させて効率よく脂肪酸を吸収していると考えられています。反芻の過程で第一胃と第二胃、そして口の間を行ったり来たりして脂肪酸をつくり、微生物が増殖するので第一胃と第二胃を合せて反芻胃と呼びます。

牛を右側から見た図

牛を右側から見た図

第三胃(センマイ):水分やミネラルの吸収

さて、4つの胃の話も後半、第三胃です。重弁胃(じゅうべんい)という名前もある第三胃は『センマイ』という名前で店頭に並んでいます。第三胃には非常にたくさんのヒダが重なり合っています。これがセンマイと呼ばれる理由ですね。たくさんあるヒダの間には反芻胃で微生物に利用された後の草がミッチリと挟まっています。第三胃ではヒダと草が密集しているので外から触ると固く、ズッシリとした密度を感じます。
そんな第三胃は草を挟んで何をしているかというと、水分やミネラルを吸収していると言われています。第三胃の構造と機能は本に挟んだ押し花に例えられるかもしれませんね。

本の一枚一枚のページのように第三胃にはヒダがあり、そこに植物を挟んで水分を吸収しています。

第四胃(ギアラ):微生物の殺菌

そして最後の第四胃です。第四胃は『ギアラ』という名前で流通していますね。
今までの胃は私たちには無い独特な胃でしたが、第四胃は人間と同じく胃酸を分泌する胃です。ですが、牛の第四胃を語る上では外せない重要な役目があります。
それは、「反芻胃の微生物の殺菌」です。
反芻胃は星の数ほどの微生物が暮らす楽園でした。しかし微生物も生き物。やがて死ぬ運命にあります。そうした微生物が行き着く先は第四胃です。胃酸によって完全に殺菌された微生物はそのまま腸へと流れていきます。牛にとって微生物は単なる栄養を作ってくれるパートナーではありません。微生物の体を作るのはタンパク質であり、死んだ微生物は牛の重要なタンパク源なのです。
つまり、牛の胃に住む微生物は反芻胃で繫栄し、そこで作られた脂肪酸は牛のエネルギーとなります。一部の微生物はやがて反芻胃から第四胃まで流れて一生を終え、微生物の体は牛に吸収されます。
私たちが食事で摂るタンパク源の代表はお肉ですね。それと同じように、草食動物である牛はタンパク源として微生物を胃で育て、それを摂取していると考えることができます。牛の大きな体はまさに胃の微生物によって支えられていると言って過言ではないでしょう。
草を利用して微生物が生まれ育ち、やがて死んで牛に還る。そうしてエネルギーを得た牛はまた草を食べ、微生物は増えていく。
このように牛の胃は一つの世界であると私は感じています。

牛飼いは虫飼い

畜産の言葉で、「牛飼いは虫飼い」というものがあります。
ここでいう虫とは微生物のことで、牛を健康に飼うためには微生物を健康に飼うことと同じ、ということです。
獣医師の間では「ルーメンアシドーシスは万病のもと」といわれることがあります。牛の胃内環境が悪くなる病態の一つにルーメンアシドーシスというものがあるのですが、その実態は胃の微生物のバランスが崩れることです。
この2つの言葉は牛の健康の基本をそれぞれの視点から言い表していると思います。微生物の健康は牛の健康なのです。

いかがだったでしょうか?
第一胃と第二胃を合わせた反芻胃では微生物が繫栄しており草から脂肪酸を、そして続く第三胃では草をギュッと挟んで水分とミネラルを、そして第四胃では微生物を殺菌して吸収する準備をしていました。
これからどこかで牛を見たとき、店頭で胃を見たときに牛の凄さやもう一つの世界を思い出していただけたらきっと見る目が変わりますよ^^

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