牛も私たちも、常に肝臓に守られています。 『沈黙の臓器』と称されることもある肝臓は今も人知れず最前線で戦い続けているのです。 お肉屋さんでは「レバー」という名前で何気なく売られていますが、 肝臓の健気で頑張り屋の一面を知るとレバーを見る目も変わってくるかもしれません。 今回は、前回触れた牛と微生物の関係に「アンモニア」という登場人物を加え、肝臓の解毒作用について紹介してみたいと思います
体内に取り込んで良いか肝臓でチェック
外国に入国する際には税関や入国審査があります。例えば外国からやってきた人が危険物を日本に持ち込もうとしていたとき、空港ではそれを取り上げて国内への危害を未然に防ぎます。ですので、国際空港は国内に本当に入れて良いかチェックする場所と言えるでしょう。
肝臓とはまさに国際空港のようなものです。体外から入ってきた食べ物に毒が混ざっていたとき、これを解毒して体への危険を未然に防ぎます。その毒の代表が、牛の胃で食べ物から作られる「アンモニア」です。
有害物質、アンモニアとは
一体アンモニアというものの何が悪いのかというと、体を作る細胞に染みこみやすい性質を持っていることです。
細胞からしてみれば、見知らぬ人が急に土足で部屋に乗り込んでくるようなもので、細胞は頑張ってアンモニアをやっつけます。しかし乗り込んできたアンモニアの量によっては細胞がエネルギーを使い果たしてしまい死んでしまうのです。
実際に肝臓が悪くなった牛でアンモニアにより脳細胞が破壊される『肝性脳症』という病気が存在します。
ところがアンモニアも大切
さて、アンモニアの悪口を言ってしまいましたが、牛とアンモニアの関係は一方的に悪いものではないのです。
実はアンモニアは胃の微生物によって作られています。
しかも、作られたアンモニアはそのまま微生物の食料になって微生物の体を作るのに必要なのです。
前回の胃の話で紹介したように、牛に必要なエネルギーの大半は胃の微生物が作り出しており、そのような微生物が健康だからこそ牛が健康でいられるということでした。
つまり、アンモニアは
『牛の健康には悪いが、微生物の健康には必要、だから牛の健康にも必要』
という何とも複雑なお相手。牛と微生物とアンモニアは絶妙な三角関係なのです。
牛には微生物が必要です。ですからアンモニアとも一生付き合っていかなければなりません。この3者の間を取り持っているのが「肝臓」なのです。
星の数ほどの微生物が作るアンモニアですが、全て微生物たちで消費されているわけではありません。
アンモニアは微生物が消費する一方でどんどん胃壁に染みこんでいくのです。染みこんだアンモニアは他の栄養と一緒に血流で運ばれるのですが、運ばれてまず最初に通るのが肝臓なのです。
肝臓に流れ込む血流の中はまさに玉石混交、脂肪酸のように素敵な栄養もあれば、アンモニアのような危険物も沢山混じっています。そこで肝臓は有害物質を片っ端から捕まえて速やかに処理していきます。
これこそが肝臓の『解毒作用』です。ここで肝臓が弱っていたりすると、肝臓の監視をくぐり抜けた有害物質が牛の全身を駆け巡り、牛の健康状態がどんどん悪化していくことは簡単に想像できます。
牛が微生物と共存して草を食べられるのは肝臓のおかげなのです。
健康な肝臓
人間では飲み過ぎ食べ過ぎで肝臓が弱ると言われますが、牛の肝臓についてはどうでしょうか。
実のところ、お肉にする牛の半分程度で肝臓に異常が見つかっているようです。当然、そのような肝臓は適正に処分され販売されることはありません。
肝臓はけなげで頑張り屋の臓器です。たとえ肝臓に異常があっても、肉には何ら問題が見つからない牛は沢山います。それは肝臓が解毒のために働き続け、主である牛を守り続けた結果と言えるでしょう。
肝臓は『沈黙の臓器』と呼ばれることがありますが、それは肝臓に異常が起こっていても気づきにくいからなのです。肝臓は牛の体を守るために黙々と働き続け、時として犠牲になっているのです。
いかがだったでしょうか。
微生物が育つためには牛にとって毒であるアンモニアが必要であり、肝臓の解毒作用があるからこそ牛と微生物が共存できることを今回紹介しました。
私たちが食べられる牛レバーは正真正銘牛の健康な肝臓です。肝臓を悪くする牛が多いことを考えれば、生産者が最後まできちんと牛を気にかけたからこそ食べられる部位なのかもしれませんね。
レバーは牛ではあまりメジャーな部位ではないかもしれませんが、このような背景があると思うと味わいがもっと深くなるかもしれませんね(^^)
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